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夫婦の日常と こころの中のこと
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法要のあと、ささやかな会食の場を持つ。
弟夫婦がしっかり取り仕切ってくれた。膳の用意など俺の妻と姉が手伝ったばかりである。ありがたい。


俺が家を建てるというので、宴では叔父たちとその話で盛り上がった。
長男が県外に新所帯することを非難されるのではないかと思っていたが、叔父たちは概ね好意的であった。
俺の今までの行状を評価してくれているらしい。

ところが、弟が喰いついた。気にいらんらしい。
酒も入っていたことだし、まあ・・・昔から自分以外の人間が注目を受けることを嫌う性格の男であったが、いまだにそうなのかと、俺も最初は受け流して聞いていた。
母と生活を共にしてくれたことには感謝しているし、田畑を管理してくれていることもありがたく思っている。
しかし、酔っ払いは言説がしつこいものだ。素面の俺には聞くに堪えない。くどくど言い募る弟に、俺はだんだん苛つき始めた。
俺もぽろりと言い返してしまった。叔父の一人が俺の肩を持つ言葉を挟んでくれたが、なにぶん叔父も酔っており、その言葉は火に油を注ぐ結果を招いた。
弟は怒り出した。

弟の主な主張は以下の通り。
「兄貴は(家のために)何もしない」
「跡取った者の気持ちが兄貴にわかるわけない」
要するに弟は、兄貴のくせに勝手ばかりする俺に我慢ならんのだった。

「何もしない」って・・・
お前が人並みの結婚式挙げられたの、誰のおかげだ?
お前が結婚するからって、家の水まわり整えてやったの、誰だ?
コンバイン買ったの、誰だ?
その他いろいろと、経済的に援けていたのは俺だぞ。
出て行って帰れない長男の気持ちだって、弟にはわかるわけがない。

「金出せばそれでいいのか」と弟は言う。
金より情愛が尊いとは俺も思うが、情愛がなければ金も出さん。情愛の一部を金で表現したと、俺は思いたい。
しかし、そんな冷静な反論はいくらも続かない。俺と弟の議論はバイオレンス風味が加味され、議論とは呼べない代物にすぐに変化した。
「コンバイン持って帰れ」「自分が手入れした家に住んだらどうだ」などなど、子供じみた反論が始まった。
昔から、弟が鼻にしわを寄せながら屁理屈言う様子が、俺は大嫌いだったのだ。それを見ると俺は途端に、頭に血が上るのだった。
そして、今もそうであることを俺は確認した。
俺にとって、痛いところを突かれているというのも、ある。人は不都合な真実を指摘されたとき激昂するのだ。つまり図星だったということである。

売り言葉に買い言葉で、俺と弟の会話は罵り合いの様相を呈し、それはエスカレートする一方であった。
「ぶっとばすぞ」「暴力かよ?」「うるせぇ、かかってこいや」「わけわかんねぇ」「インテリさんは暴力反対か、ごるぁ」などという殺伐とした会話が交わされた。
とりなそうとする叔父たちと、いきり立つ俺、憮然とする弟で、場は騒然となった。

茶の間で、子供たちと食事をしていた妻たちが慌てて出てきた。
俺の妻と弟の妻はおろおろして、「やめてよ」などと亭主を抑えた。そう言われても、引き下がれない気分であった。弟もそうであったろう。
姉は遅れて、子供たちを従えて現われた。俺と弟を睥睨し、
「ああ、うるせぇ!でけぇおっさん二人が何騒いでるんだよ」と、俺たちを叱りあげた。
弟は、俺が殴るんだと、姉に訴えた。俺は、まだ殴っていない、と反論した。
姉は「いい歳して殴り合いかよ?」と哂い、母が浮ばれないだろうと諭した。諭したというか、俺らを黙らせたといった方が、正しい言い方だった。
何とかその場を取り繕い、俺と弟は口をきかなかったが、叔父たちと改めて酌み交わし、ほどなく宴は開けた。

帰り際の叔父たちから、弟は俺を妬んだのだという解説を聞かされた。
今の状況に不満があるわけではないが、新しい土地で家を新築する俺を、弟は羨んでいるのだと。弟がこの家に残ってくれたからこそ、俺はそうできるのだからと。弟は確かに言いすぎだと思えるが、聞き流してやれと。
そういうことを叔父たちに諭された。
弟は弟で諭されているようだった。
俺にも後ろめたいところはある。弟も思うところがあるだろう。
お互いのことを思いやれば、喧嘩をしなくてもすんだのだが。それは「後からつけた」ことである。
頭が冷えて、みなに迷惑をかけたことを思い至り、バツが悪い気分だった。喧嘩をするだけの元気があると思っても、やってられん気分であった。


冠婚葬祭で兄弟が集まったときに刃傷事件になった、と新聞などで時折報じられる。他人事に見ていたが、なるほどあり得ることだと痛感した。
寄ると触ると喧嘩をするような兄弟だったわけではない。むしろ仲はよかった方だと思う。
しかし、あんなに頭に来たのは、血が繋がった兄弟ならではかもしれん。

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